学校教科書への疑念

ひと頃、中国孤児の問題が随分大きく採り上げられていたが、この人達もいわばソ連の不法な行為の犠牲者である。近年の北朝鮮による拉致問題も不法な行為であることには間違いない。しかし、ソ連抑留はさらに大規模な、いわば拉致ではないか。国際問題としてなぜ採り上げられなかったのか、不思議でならない。その原因はどこにあったのか、解明する必要がある。

例えば、戦後の学校教科書にソ連抑留の事実についてほとんど記述がなく、あってもまったくお座なりであったことを指摘しておかなければならない。

あれは、昭和の50年代、抑留補償を求める運動が全国各地で高まり、自民党はじめ、各党にこの問題についての議員連盟が組織された頃、私が文部省に頼んで高校の主として社会科の教科書を集めてもらったことがあった。

しかし、教科書にはソ連抑留の事実について全く記載がないものが多く、稀に記してあるものもごく簡単に2、3行、旧満州、北朝鮮にいた日本軍の将兵約60万人がソ連に捕虜として収容された、と言った程度のものであった。ソ連の不法行為については、一言も記していなかった。

私どもは文部省の担当局に対して、教科書検定に際して、この抑留問題についてもっと記述をするように指導すべきことを申し入れたが、帰ってきた答えは、教科書検定は検定を求めてきた教科書の草案について誤りがあれば、それを指摘するだけが権限であって、どういうことを書くかということについて文部省は指導、指示する立場にないので不悪(あしからず)というそっけないものであった。

私は、その答えにまったく納得できなかった。現に国旗、国歌の問題についても記述を指示したではないか。ものによって使い分けをしていることは事実ではないか。

当時、俗説では、教科書は共産党の学者が書いて社会党の先生が教えている、というようなことすら言われていた。事の真偽は問わないが、とにかくソ連を非難すると思われるようなことをできるだけ書かすまいとするような空気が教科書検定官のグループになかったか、どうか、どうも疑わしい気がする。

最近の教科書にはかなり多く記載されているが、それでも扱い方は極めて事務的であって、ソ連の不法行為を非難する記述は見あたらない。まことに残念である。