検討懇談会の発足

昭和55年2月、自民党議員二百数十名からなる「戦後強制抑留者の処遇改善に関する議員連盟」(略して処遇改善議連)が結成され、請願が国会で受理され、社労委に付託、後で内閣委に移り、自民党では内閣部会で取り扱うようになり、昭和55年、愛野内閣部会長の下にプロジェクトチームが結成され、本格的に前進した。しかし、政府側は依然として戦後処理は終わったとの42年の党と政府間の覚書を楯に取り、補償要求を認めようとはしなかった。

56年の予算編成期に処遇改善議員連盟の強力な働きかけにより、党と政府間に戦後処理見直しの了解が成立し、総理府総務長官(昭和59年7月1日からは内閣官房長官)の私的諮問期間「戦後処理問題検討懇談会」の設置となり、予算500万円が計上された。

57年7月、水上達三氏座長の7人委員で検討懇談会が発足、2年半の長期にわたる検討結果の答申を59年12月、官房長官宛てに提出した。

一 およそ戦争は、国民すべてに対し何かしらの損害を与えるものであり、全国民がその意味で戦争被害者といえるものであるが、そのなかで、戦後処理問題とは、戦争被害を国民の納得を得られる程度において公平化するため国がいかなる措置をとるかという問題である。

政府は、これまで、その段階段階に応じて戦後処理を行ってきたところであり、その結果、昭和42年、在外財産問題の決着をもって戦後処理は一切終結したことを政府与党間において了解したところである。

しかしながら、戦後40年にならんとする現時点において今なお強い要望があるため、我々は、昭和56年12月の政府・党合意に基づき改めて公正に戦後処理の諸問題を検討してきたところである。この間、議論に必要なあらゆる面から検討の結果として、特に重要な恩給欠格者問題、戦後強制抑留者問題及び在外財産問題の三問題について得た結論は、大要次のとおりである。

(一)恩給欠格者問題(略)

(二)戦後強制抑留者問題

戦争が終了したにもかかわらず、シベリアに強制抑留された方々の労苦は、我々の想像を超えるものがあったであろう。また、ポツダム宣言に違反して強制抑留され、捕虜の人道的な取り扱いに関する国際慣習に反して過酷な労働を強制された方々に対し対価もほとんど支払われていないことや、事情は我が国と異なるが、西ドイツにおいて補償を求める心情は理解に難しくない。

一方、国においても、恩給法において抑留加算を設け、未帰還者留守家族等援護法により抑留者の留守家族に対しても留守家族手当を支給する措置を講じているほか、遺族及び傷病者に対し、恩給法、戦傷病者没者遺族援護法及び戦傷病者特別援護法により、恩給、療養の給付等を行っている。過酷な抑留を強いられたことは真に同情すべきではあるものの、それもまた国民がそれぞれの立場で受け止めなければならなかった戦争被害の一種に属するといわざるをえず、また、これに対し何らかの政策的措置を新たに講ずるべきかどうかについても、政府がこれまでとってきた上記の措置及び他の戦争犠牲者との間の衡平という観点からも問題があろう。

(三)在外財産問題(略)

当懇談会は、戦後処理の基本的な在り方について検討を加え、更に、措置すべきであるにもかかわらず残されている戦争損害があるかどうか、これまで講じられた措置に不均衡なものがあるかどうか、その後に置ける新しい事実又は事情の変化によってこれまでの措置を見直す必要があるかどうかについて、以上のとおり、特に、恩給欠格者問題、戦後強制抑留者問題及び在外財産問題を中心に種々の観点から慎重かつ公平に検討を行ってきたが、いずれの点についても、もはやこれ以上国において措置すべきものはないとの結論に至らざるをえなかった。

二 しかしながら、我々は、戦後40年にならんとしてなお強い要望を寄せている関係者の心情には深く心を致さねばならない。

平和の回復、国交正常化の実現、更に我が国経済の再建復興の達成が上記の多大の犠牲が払われたことの上に立つものであることは、当事者だけでなく、一般国民も理解し、感謝しているところである。

辛酸と苦労に満ちた戦争が終わり、廃墟の上に再建された日本経済の発展はすばらしい。当時の辛酸を知る戦争の被害者は既に老齢化し、この繁栄のなかに

取り残されつつあるとの感慨を抱くであろうことは、容易に想像できる。自らも寄与したと認める今日の繁栄を戦後処理に結びつけて考える気持ちも理解に難くない。

戦争損害が関係者にとって心の痛みとして償われることなく残っていることをふまえるならば、求められることは、これらの尊い損害、苦労が時日の経過とともに国民の記憶のなかから忘れ去られ、風化していくことを防ぎ、更に後世の国民に語り継ぐことであり、国民が戦争により損害を受けた関係者に対し衷心から慰籍の念を示す事である。このため、今次大戦における国民の尊い戦争犠牲を銘記し、かつ永遠の平和を祈念する意味において、政府において相当額を出損し、事業を行うための特別の基金を創設することを提唱する。

この基金の事業については、関係者が各々払った犠牲、苦労をもふまえその心情に沿ったものとなることが望まれるが、いずれにしても、具体的な事業内容、関係省庁等が行っている現行の関連諸事業との調整、財源措置、設立形態等この基金の具体化のために検討・調査すべき点が多々ある。上記基金の具体化のための検討、協議の場を設け、恩給欠格者問題、戦後強制抑留者問題、在外財産問題等、それぞれ置かれた事情、損害の性格等の相違をも勘案しつつ、公正かつ国民の納得のいく結論を得ることを望むものである。

このことが、数多くの苦労、損害を被った関係者の心を慰めるとともに、国民が今次大戦における多大な犠牲の上にもたらされた現在の平和に対する思いを新たにし、将来に向けての教訓とすることに資することを願うものである。