外務省への期待

ソ連邦は平成15年、エリツィン大統領が来日の際、宮中晩餐会において謝罪の言葉を述べたとし、また、賃金補償に関しては、昭和31年12月12日の「日ソ共同宣言」第六項に請求権放棄の規定があることをもって、一切応じられないという態度を少しも変えていない。

われわれ全抑協の代表は平成5年以来、毎年初秋にモスコウにおいて日ソシンポジュウムを開催するとともに、抑留問題についてロシア側の関係各省庁(外務省、内務省、軍事省、国立軍事中央公文書館など)を訪ねて、意見の交換をしている。

われわれは、賃金補償については、たしかに日ソ共同宣言は相互に請求権を放棄することを定めているが、これはあくまでも共同宣言であって、平和条約ではない。

共同宣言の第九項は、領土問題について、日ソ間に「平和条約が締結された後に、歯舞島及び色丹島を日本に引渡すことに同意する」と規定しているのみであって、国後島及び択捉島に関しては何等の記述もないのであるが、日本政府はあくまでも四島の一括返還を求めている。国後島、択捉島については、何等の記述のないのは、この二島については引続き交渉が継続されると日本政府は思っているのであるが、ソ連、そして現在のロシアは頑なに二島のみが返還問題の対象とみている。

そのように、両国の見解が異なっている以上、共同宣言がそのまま平和条約になると、少なくとも日ソ共同宣言は宣言として、平和条約の締結については、共同宣言と異なるところがあってもいっこうに差し支えないではないかという見解である。

外務省の事務当局は、この点に関しては、ロシア側と同じように、共同宣言にある以上、賃金補償は請求できないという態度である。ただし、国としては請求できないが、抑留者個人、あるいは団体がロシア側に要求することを何ら妨げるものではないと言明している。ただ、こういう問題について外務省が動かないというのは、全く不可解なことであって、日ロの首脳会談等の際には、是非問題として採り上げ、強く補償を請求してもらいたいと思っている。

政府は、北朝鮮の拉致問題については真剣な努力をしているようであるが、われわれ抑留者もまさにソ連による拉致被害者だと思われる以上、もっと腰を据えて真剣にロシア政府と交渉を重ねてもらいたいと強く要望する。