私の名を呼ぶ兵士あり
横道河子に白系露人の教会があり、庭園式の森が繁茂していた。ソ連機の波状攻撃のすき間を狙い森の中へ避難する。
隊長が「直ぐにトラックに乗れ」と命令を発した瞬間、教会の石段に累々と重なっている屍の中から突然、「吉田勇さん!」と私の名を呼ぶ兵士があった。思わずるふり向けば顔面は泥まみれで、誰か識別すら出来なかった。
この時、「直ちに乗車せよ」との隊長命令が出た。後髪を引かれる思いを残し、「頑張ってくれ」というのが精一杯だった。
帰国後「あの時の兵士は私です」という人には出会うことはなかった。
昭和20年8月15日