読売新聞
1992年(平成4年)10月10日
シベリア抑留絵画展開幕
ウラジオストク9日 西嶌一泰
シベリア抑留体験を描き続ける奈良県大和高田市のアマチュア画家、吉田勇さん(68)のロシア巡回絵画展が九日、最初の開催地、ウラジオストク市の 沿海州庁舎一階ホールで始まった。祖国を遠く離れた厳寒の地で命がけの労働を強いられた捕虜の姿に、現地の市民からも、平和と反戦を誓う声が相次いだ。
捕虜が凍てつく中でみそ汁やすしの幻を見る様子を描いた「幻覚」、男たちが血走った目でパンをてんびんにかける「食糧の分配」など約二百点を展示。
開会式には、関係者役百五十人が出席。吉田さんが「一人でも多くの人に戦争の愚かさを感じてほしい」と述べたあと、テープカットが行われた。続い て、来賓の宇野宗佑元首相が自らの抑留体験に触れながら「この絵を通じて、日本とロシアの間に永遠の友情を結びたい」とあいさつ。ウラジミールクズネツオ フ同州知事が「展覧会は両国民の理解と友好を深め合うために有意義だと確信している」と話した。
現地では、両国間の悲惨な歴史を知らない人も多く、訪れた市民らは、「戦争に対する怒りと恐怖で涙が出そうだ」「今後の友好関係を築くために、ぜひ見つめておくべき真実を知らされた」などと話していた。
同展は十一月十八日からハバロフスク、十二月下旬からコムソモリスクナアムーレに会場を移し、来年一月中旬まで行われる。