毎日新聞 1992年(平成4年)9月4日(金曜日)

毎日新聞

1992年(平成4年)9月4日(金曜日)

「戦争の真の姿を訴えたい」

恩しゅうを超えて ロシアの3都市で開催

シベリア抑留絵画展 : 大和高田の吉田さん

多くの戦友を亡くしたシベリア収容所の悲惨さをキャンバスに刻み続けている大和高田市三和町のアマチュ ア画家、吉田勇さん(68)の作品展「シベリア抑留絵画展」が今月から、ウラジオストクなどロシアの三都市で開かれる。日露の暗い時代を象徴する収容所の 絵画展が現地で開催されるのは初めてといい、吉田さんは、「恩しゅうを超えて戦争のむごたらしさを訴えていきたい」と話している。

吉田さんは1944年、召集で旧満州(現中国東北部)へ渡り、終戦と同時に旧ソ連軍によってシベリアに連行された。極寒の地で強制労働に従事、あまりに過酷な環境のため同僚は次々と倒れ、初めての冬を乗り切ったのは500人のうち126人だった。

47年に帰国。映画館や駐車場の経営のかたわら独学で描き続けてきたが、12,3年前から防衛費の増大などに「軍靴の足音を聞くよう」になり、戦争の真の姿を訴えようと収容所の体験を表現するようになった。

展覧会は昨夏、シベリア墓参団に参加した際に知り合ったウラジオストク大のオレグ ビーソチン教授に勧められたのがきっかけ。この6月、ウラジオストク、ハバロフスク両市の文化局から招待状が届いた。

今月15日からウラジオストク、10月はハバロフスク、12月にコムソモリスクの各市を巡回。これまでに描きためた二百数点のうち二百点を出展す る。テーマはソ連軍の参戦や収容所での飢餓、死んで行く仲間、望郷の思いなど。初めはロシア側に配慮してソ連軍の参戦の絵はやめるつもりだったが、契約交 渉の席で吉田さんが「たくさんの友を失ったが、戦争という愚かな行為の中での出来事」とあいさつすると、現地の関係者の方が「貴い意見だ」と出品を希望し たという。

吉田さんは「ロシア人の当時の絵を見るのは楽しいことではないだろうが、開催に積極的に協力してくれた。平和使節としての役割を果たせたらと思う」と言っている。

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